韓国には『パラサイト』超えの作品も。『万引き家族』との比較で見える日本と韓国の映画業界の違い。

先日開催された米国のアカデミー賞授賞式にて、作品賞を韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』が受賞しました。アカデミー賞において最重要とされる作品賞に英語以外の言語で制作された映画が受賞するのは初めてのことで、快挙として大々的に報じられました。

隣国であり、ライバル意識を持つ人も多い韓国の受賞ということで日本でも大きな話題となっています。その中では、やはり日韓の映画業界の違いに言及する声も多くなっています

例えばこのような、日本と韓国やハリウッドの映画業界を比較するようなツイートが3,000回近くリツイートされています。実際のところ、日韓の映画業界はどのように違うのでしょうか。

日韓映画業界の予備知識

まず比較分析していくにあたって、日韓の映画業界に関する基礎的な知識を共有しておきたいと思います。

市場規模

参考 過去興行収入上位作品一般社団法人日本映画製作者連盟 参考 KOFIC 映画館入場券統合コンピュータ・ネットワーク::月別総観客数と売上高(※韓国語)KOBIS

上記2つサイトのデータによれば、2019年の日本観客動員数は約1億9,400万人ですが、韓国は2億2,600万人となっており日本を上回っています。日本の人口が約1億2,000万人、韓国の人口が約5,000万人であることも踏まえれば、国民が映画を見る頻度という点では韓国の方が圧倒的に多いことがわかります。

映画の料金

参考 韓国シネコン最大手が映画料金値上げへ 他社も追随の公算聯合ニュース

日本の映画館の基本的な料金は1,800円、一方の韓国は1万ウォン前後です。1万ウォンは日本円で約1,000円で、近年は日韓で物価に大きな差がないことから考えても韓国の方が安価に映画を見ることができると言えます。映画を見に行くことへのハードルが日本より高く、動員数の多さの一因になっていると思われます。

人気作品の傾向

2019年の日本と韓国の興行収入ランキングの上位作品の比較を通じて、両国の映画ファンの嗜好や特徴傾向を見ていきたいと思います。洋画は各国で普遍的に人気を得ている作品であることから、国民的な嗜好の特徴を計るのに不向きであるため、今回はそれぞれの国内映画に注目します。

日本の興行収入ランキングトップ10

1位は新海誠監督のオリジナル長編劇場アニメ『天気の子』。前作『君の名は。』に続く200億円超えとはならなかったものの、140億円のヒットとなりました。

2位以下は『アナと雪の女王2』、『アラジン』、『トイ・ストーリー4』と洋画であるディズニー作品が続き、5位に『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』がランクインします。6、7、8位も洋画、9位には同名漫画の実写化作品『キングダム』が入り、10位は人気漫画『ONE PIECE』の劇場アニメ作品『ONE PIECE STAMPEDE』となっています。

やはり際立つのはアニメの存在感でしょう。トップ10入りした邦画4作品のうち実写作品は『キングダム』の1つのみ。その『キングダム』も原作は漫画です。アニメ3作品も必ずしも子供向けであるというわけではないからこその大ヒットであり、日本人の中で映画館に足を運ぶ人に漫画やアニメのファンがいかに多いかということが窺えます。

また、トップ10入りした邦画の中で原作を持たない完全オリジナル作品だと言えるのは『天気の子』のみです。次にオリジナル脚本の映画がランキングに登場するのは三谷幸喜『記憶にございません!』の15位であり、原作を持つ作品の人気が際立っています。原作の存在により事前に知名度が確保できているというのが大きいためだと思われますが、オリジナルの映画を見に行く層がそれより少ないのだとも言えます。

日本の映画市場は「映画ファン」というよりはアニメ、漫画、小説、あるいは俳優のファンの方が多いと言えるのではないでしょうか。

韓国の興行収入ランキングトップ10

一方の韓国のトップ10を見てみると、アカデミー賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』を抑えて『エクストリーム・ジョブ』という韓国映画が1位を獲得しています。

『エクストリーム・ジョブ』は麻薬捜査班が操作のためにフライドチキン店に扮するアクションコメディです。オリジナル脚本作品で、興行収入は1,396億ウォン、日本円にして約130億円と、韓国国内で歴代1位の興行収入となりました。

こちらも日本のランキングと同じく韓国映画にのみ注目しますが、5位に『パラサイト』、6位『EXIT イグジット』、8位に『白頭山』と韓国映画は4本ランクイン。国内映画のランクインの本数でいえば日本と同じということになります。一部の飛び抜けた作品でなければ洋画の大作には及ばないという状況も日本と似通っています。

『白頭山』は中国と北朝鮮の国境にある火山、白頭山の噴火に韓国の兵士と北朝鮮の工作員が協力して対応するという筋書きの映画です。韓国では白頭山の噴火は現実的な危険と捉えられており、南北融和が取り沙汰されているという背景も含めトレンド性の強さから好成績につながったと思われます。

『EXIT イグジット』は上昇してくる有毒ガスから逃れるため、超高層ビル群をロッククライミング的に登るアクション作品です。792億ウォン、日本円で約73億円の興行収入を記録しました。『エクストリーム・ジョブ』と合わせ、オリジナルのアクション映画がトップ10入り韓国映画の4作中2作を占めていることは韓国映画ファンの嗜好を見る上で大きな特徴だと言えるでしょう。

『パラサイト』と『万引き家族』の比較

『パラサイト』はアカデミー賞受賞に先駆けて、カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞しています。パルムドールといえば2018年に是枝裕和監督の『万引き家族』が、邦画としては今村昌平監督の『うなぎ』以来21年ぶりとなる受賞を果たした賞でもあります。

「家族」をテーマにした社会派の作品であるという点も含め、両者はよく似た作品であると言えます。であれば、それぞれに対する国民の反応、つまり動員数を比較することでも映画ファンの傾向を読み取れるのではないかと思われます。なお、いずれの作品もカンヌ国際映画祭ののちの国内劇場公開であり、2019年のデータであるため『パラサイト』の動員数にアカデミー賞の受賞は関係ありません。

『万引き家族』
・興行収入:45.5億円(2018年)
・観客動員数:380万人(2019年3月17日時点※)
※動員数は日本映画製作者連盟の公開データに年間の作品別データがないため以下のニュースを参照

参考 アジア・フィルム・アワード-それぞれ日本作品では10年ぶりの快挙!-『万引き家族』作品賞!そして最優秀音楽賞は細野晴臣!cinefil

『パラサイト 半地下の家族』
・興行収入:80億円(2019年)
・観客動員数:1000万人(2019年)

『パラサイト』は『万引き家族』に対して興行収入は2倍近く、動員数は2倍以上を記録していることがわかります。興行収入が動員数に対して小さいのは、先に述べた通り映画の料金が安いことからくるものと思われます。

さらに、これも先に述べましたが韓国の人口は日本の半分以下です。リピーターなどの要素も考慮すると単純に計算はできませんが、『万引き家族』は人口1億2,000万人に対して380万人の動員なので国民の約3%が見た計算になります。一方で韓国の人口は5000万人ですから、1000万人が見たということは国民の約20%に当たる人が鑑賞したことを意味します。

例えば日韓それぞれで2019年に興行収入1位となった『天気の子』と『エクストリーム・ジョブ』がほぼ同じ興行収入であるように、娯楽作品に対する反応は日韓に大きな違いはありません。しかし社会派作品について比較すると、45.5億と80億という差が生まれます。これは日本よりも韓国の方が社会派作品に対する感度が圧倒的に高いことを示していると言えます。

分析とまとめ

  • 日本は漫画原作ものやアニメが強い
  • 韓国はオリジナルのアクションものが強い
  • 社会派作品に対する感度は韓国の方が圧倒的に高い

洋画の大作が強いこと、ジャンルの違いこそあれ興行成績のトップは基本的に娯楽作品であること、この2点においては日韓の映画ファンにそれほど大きな違いはありません。一方で国際的な映画賞に向いているか否かという観点から考えると、オリジナル性、社会派要素を含む作品への関心の大きさから韓国に軍配が上がることがわかります。

冒頭で紹介したツイートでは「韓国映画は観客を信頼し続けた」という表現がされていますが、これを「原作の人気で気を引かなくても動員できる」、あるいは「国際的な映画賞で高評価を受ける作品を見極める目がある」という意味だと解釈すると、確かに韓国の観客は信頼に足ると言えるでしょう。

ただ、国際的な映画賞での評価だけが映画の良し悪しを決める絶対的な評価基準というわけではありません。娯楽性の高い作品は社会派作品に映画の質において劣る、ということもないでしょう。それぞれ意図するものが違うのであり、異なる2つの価値観があるにすぎません。『パラサイト』と『万引き家族』のように近い性質を持つ作品を比較する場合でも、どちらがよいかというのは鑑賞者次第です。アカデミー賞という結果もまた、アカデミー会員という個人の集合体の価値判断が形になっただけのものだと言えます。

2019年、日本の映画業界は過去最高の興行収入を記録しました。それはよくも悪くも、ぶれずに日本の既存の「映画ファン」を重視したからこその堅実な成長だと言えるでしょう。国際的な映画賞の評価を狙っていくことも重要な戦略ではありますが、内向きと言われようと冷静にファンのニーズに応え続けるという姿勢もまた、1つの正解なのではないでしょうか。