サントリーこそが真の #PR を行っている。ユーザーを惹きつけるコミュ力を解剖。

昨年12月、映画『アナと雪の女王2』 をめぐるステルスマーケティング疑惑が話題となり、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社は「PRであることを明記するよう伝え忘れたミスである」という旨の釈明を行いました。騒動の顛末については次の記事をご覧ください。

参考 アナ雪2ステマ騒動は連絡ミス、日本ディズニーが釈明。「コミュニケーションに行き届かない部分」Engadget 日本版

宣伝を行う企業の視点で言えば、「#PR」のタグをつけることは宣伝の難しさにつながります。インフルエンサーを通して宣伝を行うことの強みは、インフルエンサーに好意的な感情を寄せている人たちにポジティブな印象を与えられることです。しかし「#PR」タグをつけることで、インフルエンサー自身の言葉というより企業の代理人としての側面が強くなってしまい、期待する効果を得づらくなってしまうわけです。

そのような「#PR」タグを使ったマーケティングにどのようなものがあるのか気になり調べている中で目に留まったのが、大手飲料メーカーサントリーの取り組みでした。

参考 てんや公式Twitterのひと味違うクーポン配布方法がもたらす効果とはFanTerrace

以前、簡単にではありますがこちらの記事の中でも、サントリーの公式Twitterアカウント(@suntory)が大企業のアカウントでありながらユーザー個人の存在を意識したきめ細やかなリプライを送っていることに注目しました。

サントリーは各所でこのような非常に洗練されたPRを行っていますが、今回はそのサントリーのインフルエンサーのTwitterアカウントを通じたPRの巧みさについてご紹介したいと思います。対象とするのは、「#PR」のついたツイートの他、企業名が明示されており利害関係の存在が推定できるケースです。

一般的な例としてのコカ・コーラ

サントリーの興味深い施策に注目する前に、比較対象としてコカ・コーラのプロモーションツイートをについて取り上げます。こちらの、タレント・武井壮さんのツイートをご覧ください。

どんな印象を持たれたでしょうか。「いかにも宣伝っぽい」と感じられた方も多いと思います。この「#私の見たいオリンピック」というタグのついたツイートは他にもあり、それらを合わせて見ると依頼側の作為がはっきりと見えてきます。

文章の共通性から考えて、「21種目から選べること」とその中から自分が見たい競技を選んで言及するよう指示があったと思われます。ツイートの内容もその人ならではの独自性のあるレビューなどではなく、発信者が企業ではない個人であることの意味も見出しづらいものになっています。

武井さんのフォロワー数は2020年1月時点で145万人を超えています。武井さんのフォロワーにはスポーツ好きが多いと推察され、その一部に届くだけでも確かに効果はあるでしょうが、フォロワー数やその他の武井さんのツイートなどと比較してみると、当該ツイートの「いいね」やリツイートの件数はかなりさびしい数字に見えます。

フォロワーの反応が鈍いことは、このツイートが武井さんの言葉だと感じていない人が一定数いることの表れではないでしょうか。これでは単に「オリンピックのチケットが当たるキャンペーンをやっている」という情報をマスコミュニケーション的に発信しているだけということになり、SNSをうまく活用した施策とは言い難いでしょう。

これを踏まえた上で、サントリーの具体的な施策を具体的に2つご紹介します。

三角コーンのボトルキャップ

まず、こちらのツイートをご覧ください。

ツイートの発信者はやしろあずきさん。2019年1月時点で47万人を超えるフォロワーを抱えるweb漫画家です。ツイートの内容はご覧の通り「サントリーさんから『三角コーン型』のボトルキャップが届きました」という報告です。

Twitterの話題に敏感な方はやしろあずき、三角コーンと聞けばすぐにピンとくるかと思いますが、そうでない方にとってはまったく経緯も意味もわからないツイートでしょう。しかしリツイート数は2000を超えており、コカ・コーラの「#PR」ツイートをした武井壮さんの約3分の1のフォロワー数でありながら10倍近い数字を叩き出してることになります。

一体なぜ、製品に三角コーンのボトルキャップをかぶせただけの画像でこれほどのエンゲージメントを獲得できるのでしょうか。

やしろさんと三角コーンの関係は、2016年のやしろさんの誕生日に4つのカラーコーンを送られたことから始まります。やしろさんは別に工事や建設関係の仕事を本業としているわけではありません。単なるお茶目な嫌がらせとして送られてきたわけなのですが、それ以降も続々と三角コーンが送りつけられ、やしろさんはTwitter上で「三角コーンの人」として有名になったのです。

つまり「やしろあずきに三角コーン」はいわばTwitterにおけるお約束で、非常に話題性の高いネタとなっています。サントリーはこのミームをうまく活用することで、高いエンゲージメントを創出したということなのです。

そもそも人気があるポケモンはともかく、フォロワー数が2000人程度である小野印房のツイートが1万回以上リツイートされているのを見れば、ミームに乗ることの効果の大きさはよくわかります。

以上をまとめると、サントリーは商品そのものをプレゼントする代わりに話題性の高い付属品を送り、その紹介を主眼にしたツイートの中で副次的に商品をアピールしたということになります。

インフルエンサー自身の個性を主旨とすることで、自然にPRツイートを拡散させる。一方的な宣伝を嫌うユーザーの心理をよく理解し、Twitterの空気に溶け込むことで成功を収めた施策だと言えるでしょう。

烏龍茶料理のレシピ

続いて紹介するのは料理研究家・リュウジさんのTwitterを介した、サントリー烏龍茶のプロモーションです。リュウジさんは日頃からTwitterなどのSNSで簡単な料理のレシピを発信しており、2020年1月時点で約115万人のフォロワーがいます。

そのリュウジさんがある日、こんなツイートをしました。

こちらのツイートには「#PR」タグはついていませんが、大量の商品が並ぶ写真はいかにも宣伝的でコカ・コーラのそれと同質のものにもに見えます。しかしリツイート数は3000を超えており、有益な情報であるレシピと同等に近い数字となっています。

このツイートとその前後を含む一連の流れを全体として見てみると、サントリーのSNS戦略がいかに巧みかということがよくわかるのです。その発端は、烏龍茶を使ったレシピを作るというコラボでした。

大量の烏龍茶は、そのコラボレシピ企画のお礼として送られてきたものだったのです。しかもこの投稿では終わらず、そこからさらに、大量の烏龍茶を使いきるまで烏龍茶を使ったレシピを考案するという企画につながっていきます。

先程述べた「一連の流れ」というのは、この「コラボレシピ考案→お礼に大量の烏龍茶プレゼント→使い切るまで烏龍茶レシピ考案」という流れのことです。

レシピとの抱合せの効果

この流れについて第一に指摘できるのは、レシピとしてPRするという手法のうまさです。

これもボトルキャップのときと同様、多くの人が関心を持つレシピの影に烏龍茶を隠すことで、いかにも宣伝っぽいような印象を与えずに烏龍茶をアピールしていると言えます。

また、レシピ自体にも商品の活用法として購買を促す効果があります。仮にレシピとしての魅力がそれほど強くないとしても、日常的に飲む飲料を選択するときに「料理にも使える」という付加価値を持った烏龍茶を選ぶ可能性は高められるでしょう。商品の宣伝としては非常に効果的だと思われます。

レシピとしてPRすることには以上のような利点があります。

コミュニケーションのエンタメ化

第二に、一連の流れをつなぐ些細なコミュニケーションに、一種のコンテンツとして価値を持たせているという点に巧みさがあります。

こちらは、最初のコラボレシピの際のリュウジさんのツイートです。サントリーとの企画にも関わらず、「どんな烏龍茶でも美味しいです」と言ってしまっています。

これに対してサントリーが「サントリーの烏龍茶で作ってください」とツッコミを入れます。

ある種の漫才的な面白さがあり、見る人に親しみを与えるやり取りだと言えます。大半のツイートで2桁のリツイートしか獲得できていない烏龍茶の宣伝アカウントのツイートが、4桁のリツイートを獲得していることからもその効果は明らかでしょう。

この面白さこそが冒頭に挙げたような、大量の商品画像によるアピールに見えるツイートが、3000以上のリツイートを獲得するのに大きな役割を果たしていると考えられます。

その烏龍茶を送られたことの報告ツイートも、先に紹介した漫才的なやり取りと同様、単発の投稿として終わらずそのまま掛け合いにつなげています。

これは、サントリー側の「ミス」に対して優しく接するリュウジさんという構図で微笑ましいやり取りになっていると言えます。ここから、リュウジさんがその「ミス」に対する助け舟を出すという形で、その烏龍茶を使い切るまでレシピを考案するという企画につながっていくわけです。

つまり、あの大量の烏龍茶のツイートは単なる商品のアピールではなく、1つの心温まる物語の導入部分としての側面も持っているということです。一見すると取り立てて面白みのないようにも見えるツイートが、コミュニケーションによって物語性を獲得し、ネットで人気のミームや有益なレシピと同様に話題性を持ったのだと言えるでしょう。

このようにサントリーは、コミュニケーションをコンテンツ化することで、ボトルキャップなど他の例と同じくユーザーに宣伝としての要素を意識させずにリツイートを促すことを可能にしたのです。

まとめ

以上、サントリーのPR施策についてご紹介しました。サントリーはネットの空気を読んでそれに溶け込み、SNSの特性を生かしたコミュニケーションによってユーザーに親近感を与えることでより自然に宣伝を行っていることがわかりました。

ちなみに、普段「PR」という言葉は宣伝や広告のような意味合いで使われることが多くなっていますが、これがなんの略称であるかみなさんはご存知でしょうか?

本来PRとは「パブリック・リレーションズ」の略であり、公衆との「関係」づくりを指す言葉です。つまり厳密に言えば、PRは宣伝や広告のような一方的な情報発信とは異なるものだということです。しかし今や「#PR」というハッシュタグは、一方的であれなんであれ、宣伝活動を行うための免罪符のようなものになっているようにすら思われます。

ユーザーに限りなく近い目線でSNSを活用し、ユーザーを楽しませながら商品の宣伝を行うサントリーこそ、本来の意味での「PR」を行っている企業だと言えるのではないでしょうか。