Twitterとサイゼリヤのラム肉「アロスティチーニ」が羊肉を「第四の肉」に押し上げる?

昨年から、サイゼリヤのラム肉料理「アロスティチーニ」が話題となっています。特に使われている香辛料がおいしいとしてTwitterを中心に人気となり、一部店舗での提供だったものが昨年12月に全国展開されるに至りました。そして先日、売れすぎて原材料不足となり販売が休止されるというニュースが話題となりました。

参考 サイゼリヤのラム肉串「アロスティチーニ」人気過熱で販売休止livedoor NEWS

羊肉はこれまで何度かブームを迎えたことがありますが、結局食卓に定着するには至っていません。しかし現在の状況を考えると、今回はこれまでのような単なるブームに終わらず、羊肉が本格的に家で消費される「第四の肉」として普及する可能性は大いにあると言えます。

その鍵を握っているのは、TwitterなどのSNSです。

羊肉の消費動向

まず、近年の羊肉消費の動向を確認します。

ここ数年、羊肉の年単位の輸入量は堅調に増加しています。ちなみに羊肉は国内での生産がわずかでほとんどを輸入に頼っているため、輸入量がほとんどそのまま消費量だと考えることができます。

(参考:https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/index.html)

2014年までは減少したり増加したりとほぼ横ばい傾向でしたが、2015年からは一貫して増加を続け、2018年には約24,000トンに達しました。2015年から2016年の増加が約1,500トンだったのに対し、2016年から2017年の増加が約2,000トン、2017年から2018年の増加は約2,500トンとなっています。

2017年に取り扱いを始めたイオンを含め、現在では多くの大手スーパーが取り扱うようになりました。消費量の伸び幅の増加は、この流通網の拡大の効果が表れたものでしょう。

このように、消費量の推移からここ数年羊肉が着実に消費者からの支持を得つつあることがわかります。

羊肉のニーズ

また、羊肉はその時代にあった特徴から今後も消費量を伸ばすと推測されます。

ヘルシーな肉

現在の日本で、牛・豚・鶏の3種の肉の中で最も消費量が多いのは鶏肉です。長らく豚肉が1位の座を守り続けていましたが、2012年に鶏肉が1位を奪取しました。その背景には、健康志向の高まりがあると考えられます。

参考 好調なサラダチキンの消費動向~平成29年度鶏肉調製品の消費実態調査の調査結果より~alic|独立行政法人 農畜産業振興機構

ここ数年、サラダチキンが食肉界を席巻し一気に市民権を獲得しました。こちらの記事によればサラダチキンの購入理由として、独身者・単身者の20代男性では「高たんぱく質だから」という理由が1位となり、独身者・単身者の20~30代女性においては「低カロリーだから」が1位となりました。

男性は筋力の増強など体作りという観点から、女性はカロリー摂取を抑えるという観点から、それぞれ健康を意識してサラダチキンを購入していることがわかります。つまり、鶏肉の伸長の背景には健康志向の高まりがあると言えるのです。

羊肉も鶏肉と同様、健康志向の人に訴えかける特徴を持っています。

まず、羊肉は不飽和脂肪酸を多く含んでいます。不飽和脂肪酸には悪玉コレステロールを減らす効果があります。高コレステロールの原因となるのは、肉などの主に脂肪の多い食事であるとされていますが、羊肉は動物の肉でありながらむしろコレステロール対策になるということです。

また、L-カルニチンが含まれていることも特徴の1つです。L-カルニチンには脂肪の燃焼を助ける効果や、血中の中性脂肪やコレステロールを減らす働きがあるとされています。比較的低カロリーであることも含めてダイエットにも適しているといえ、現代のニーズに合致した食品となっています。

宗教的な配慮への対応

近年、食品や外食業界においてはいわゆる「ハラル」に注目が集まっています。ハラルとはイスラム教において食べることが許されている食べ物のことを指します。有名なのは豚肉を食べることが禁止されていることですが、他にも犬やロバなどが禁止されています。また、屠殺の方法などにも決まりがあります。

参考 市場規模1000億円。めくるめくハラルの世界~日本市場編~Hello NEWS

こちらの記事を参考にすると、東京オリンピックのある2020年のイスラム教徒の観光客は約140万人に上るとされています。このイスラム教徒が滞在中に口にするものすべてが、ハラル市場に含まれていると言えます。

つまり、イスラム教徒が食べることを制限されていない羊肉は、この市場にアプローチするための有効な食材であるということです。

また、宗教的な理由で食べるものが限定されるという点では、牛を食べることが禁じられているヒンドゥー教徒も同様です。人口10億人を超えるインドの約8割がヒンドゥー教徒であるほか、その周辺諸国にもヒンドゥー教徒がおり、こういった人たちも羊肉を扱う上でのターゲットです。

本格的なカレー店で、マトンカレーなどがメニューにあることも珍しくないことを考えても、羊肉は宗教的な肉食の制限に対するポピュラーな対策であると言えるでしょう。

Twitterがブームの矛先を変える

ここまでご紹介してきたことは昨日今日現れた要素や条件ではありません。そのため、これらはあくまでこれまでの羊肉人気を支えてきて、今後もその効果が期待できるというものにすぎません。この傾向が何十年も続けばやがては羊肉も自然に食卓に並ぶ肉になるかもしれませんが、それではかなり先の長い話になります。

しかし、サイゼリヤのアロスティチーニブームは羊肉の浸透を一気にもう一段上のステージに押し上げる可能性を秘めており、そこではTwitterが重要な役割を果たします。

こちらは冒頭で紹介したアロスティチーニ販売休止を報じる記事の、配信社の公式アカウントによる紹介ツイートです。人気の爆発の主なきっかけがTwitterの口コミだったので当然ではありますが、2万近いリツイートといいねを得ておりTwitter上での注目度の高さが窺えます。

重要なのは、これが販売休止の情報であることです。

まず、このニュースの拡散は商品の宣伝にもなると考えられますが、「人気すぎて販売が休止になった」という情報は単に「おいしい」とか「人気があるらしい」という情報を見聞きするよりも強く消費を促すものであると思われます。しかし販売休止しているわけなので、その欲求は満たされず宙吊りになってしまいます。

そこで代替品の存在を知らされたらどうでしょう。すべての人が、とまではいかなくとも一定数の人がその代替品を試してみようと思うのではないでしょうか。

実際、スーパーで購入したラム肉に、スパイスの代替品となる「羊名人」という商品を使用して食べることを紹介するツイートに1万3千のいいねがついています。アロスティチーニの販売休止を伝えるニュースのツイートのいいねは1万8千。つまり、ごく単純に計算するとアロスティチーニに積極的な関心を持っている人の3分の2以上の数の人が代替品へ興味を持っているということです。

このツイートからも、単なる関心にとどまらず現実に購買行動に至っている人が少なくないことが窺えます。

羊肉に使うスパイスが売れたということは、当然羊肉も一緒に売れたということになります。どの程度売り上げているかを実測することはできませんが、サイゼリヤの商品を全国的な販売休止にするほどの勢いの大半がスーパーになだれ込んでいるとすれば、スーパーなどのラム肉の購入もかなり増えていると考えられます。

これはつまり、家での食事、内食としての羊肉の消費が急激に増えるということを意味します。

続々とジンギスカン店が新規出店した2005年前後の羊肉ブームなどはで、あくまで外食産業が中心でした。外食は基本的に不定期なものであり、流行の影響も受けやすいと考えられます。そのため、外食中心の人気では「第四の肉」と呼べるほどの羊肉の定着は難しいでしょう。

逆に内食の選択肢の1つとして定着すれば、安定的、継続的な消費が望めることになります。そのため、内食化は羊肉の普及にとって、単に一時的に消費が増えること以上に重要な一歩だと言えます。つまり、サイゼリヤのアロスティチーニブームがTwitterの口コミによって欲求の解消先をガイドされたことで、より効果的なムーブメントになったということです。

おわりに

このアロスティチーニの一件だけで牛、豚、鶏に匹敵するような爆発的な普及に至るというのはさすがに不可能でしょう。しかし今回見られたような、今まで関心のなかったものへの関心や体験してみたいという欲求の惹起は、SNSというコミュニケーションの場においては決して珍しいことではありません。羊肉は時代のニーズに合致していることもあり、今後も様々な新しい商品の販売や食べ方の提案が行われることでますます日常的な消費を拡大していくように思われます。