「ガルパ」のアクティブユーザー80万を支えるリードジェネレーションの手法とは

2020年3月16日、「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」(ガルパ)というスマートフォン向けアプリゲームがリリースから3周年を迎えました。ガルパは、ブシロード社の「BanG Dream!(バンドリ!)」というバンドをテーマにしたキャラクタープロジェクトの展開の1つとして、Craft Egg社が開発・運営を行っている基本プレイ無料のリズムゲームです。

今回はこのガルパをマーケティング的な視点から考察したいと思います。

国内のアプリゲーム市場規模は今や1兆円を超えており、コンテンツビジネスにおいて非常に大きな存在感を放っています。その一方で、人気ゲームの固定化が進むことで新しいゲームを軌道に乗せることの難しさも増しています。

参考 ドワンゴのスマホゲーム終了で「ソシャゲの平均寿命」400日説Smart FLASH

この記事では2019年の2月半ばから3月半ばまでの1ヶ月間でサービスを終了したゲームの稼働日数がまとめられています。これによれば平均寿命は約2年半ということになりますが、実際には長期間運営できたゲームと短期で終了となったゲームで二極化していて、1年も保たずにサービス終了となったゲームも少なくありません。

しかしガルパはサービス開始から3周年を迎え、アクティブユーザー数も高い水準を維持し続けています。その背景には、まだファンでない人をも引き寄せ、ファンになってもらうための丁寧な道筋作り=リードジェネレーション(購入見込みのある顧客獲得)があると考えられます。

アニメ「BanG Dream!」の「失敗」

ガルパが得た人気を分析するため、ガルパ開始前の「BanG Dream!」プロジェクトそのものの人気について考えます。

参考 ブシロード 木谷高明が語る、『バンドリ!』プロジェクトの軌跡と未来 「何十年も続く作品にしたい」Real Sound

「BanG Dream!」プロジェクトを展開するブシロード社の創立者、木谷高明氏は上記インタビューにおいて、「前評判の高かったアニメが多くの批判や揶揄を受けたため、アプリゲームのプロモーションに集中する方針に切り替えた」という主旨の発言をしています。

ブシロード社としてはアニメが盛り上がり、人気を獲得し、その流れをゲームで維持していくという見込みだったものと思われます。しかしアニメの「失敗」によりその方針が頓挫し、ゲームから仕切り直しになったということです。

アニメが本当に失敗だったのかについては様々な意見があると思いますが、「BanG Dream!」プロジェクトの人気形成は、少なくとも木谷氏が満足できる水準には達していなかったと言えます。

リズムゲームのアクティブユーザー

続いてガルパがどの程度の人気を獲得したのかを計るために、ガルパのアクティブユーザーを他のゲームと比較したいと思います。対象は「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」(デレステ)と「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」(スクフェス)の2つのアプリゲームとします。

今回は、ゲーム内でのイベント開催中に一度でもゲームをプレイしたことがある人の数によってアクティブユーザー数を計ります。簡単に言うと、イベントの獲得ポイントランキング最下位が何位かを見るということです。比較するのは、可能な限り同じ条件での比較とするため、3周年を迎えるガルパに合わせて各ゲームのリリースから3年後のアクティブユーザー数です。

スクフェスのリリースは2013年の6月(iOS版は4月)。リリースから3年となる2016年6月のイベントにおいてポイントを獲得した参加者の最下位が699,945位であり、当時のアクティブユーザー数は約70万人ということになります。

デレステのリリースは2015年9月。そのおおよそ3年後である2018年8月末のイベントで、最下位に近いユーザーの順位が426,379位。同じ一度のプレイでも53ポイントよりも少ない獲得ポイントになる場合もあるため、実際はこれよりも下位がいると思われますが約42万人とします。

ガルパは2017年3月のリリースなので、今年2020年2月のイベントのアクティブユーザー数を参照します。最下位は794031位。約80万のアクティブユーザーがいるということになります。

もちろんイベントの性質や時期によって上下 (ガルパの場合「対バンライブイベント」の参加率は低い) しますし、その年のリズムゲームに対するニーズが同じとも限らないため単純な比較はできませんが、以上が1つの目安となると思います。

参考 コンテンツビジネスラボ「リーチ力・支出喚起力ランキング」~「コンテンツファン消費行動調査 2017」より~博報堂 HAKUHODO Inc. 参考 コンテンツビジネスラボ「リーチ力・支出喚起力ランキング」 〜「コンテンツファン消費行動調査2018」より〜 博報堂 HAKUHODO Inc.

「コンテンツファン消費行動調査」の、コアファンによる関連市場規模の指標である支出喚起力のランキングにおいて、「ラブライブ!」シリーズは 2016年に3位につけており、一方の「アイドルマスター」シリーズも2017年に2位になっています。

つまり、ガルパはコンテンツビジネスにおいてトップクラスの市場規模を誇る両ブランドのゲームと同等、あるいはそれ以上のアクティブユーザーを擁していることになります。アニメの「失敗」という状態でのスタートから十分な人気を獲得し、リリースから現在まで高い水準でそれを維持していると言えるでしょう。

カバー曲で呼び込む

それでは、なぜガルパはこれだけのアクティブユーザーを引きつけることができているのでしょうか。

ガルパの人気の理由を考えるため、ガルパ独自の要素に焦点を当てたいと思います。ガルパ最大の特徴は、やはり豊富なカバー曲にあります。様々なジャンルの人気楽曲をカバーしており、ゲーム内でリズムゲームとしてプレイできるカバー曲は100を超えています。

こちらは去年の2周年記念の際に追加されたカバー曲を紹介するツイートですが、このツイートは18,000回以上リツイートされています。

ここでカバーが発表されている「檄!帝国華撃団」は、1996年発売の「サクラ大戦」というゲームの主題歌です。20年以上前のゲームですが、昨年もシリーズの新作が発売されており根強い人気を誇るタイトルです。「檄!帝国華撃団」自体も知名度が高い曲で、テレビCMなどで耳にしたことがある方も多いはずです。

このような、すでに「ファン」のいる曲を取り入れることで、今までガルパに関心を持っていなかった人の興味を引くことができます。

※ゲキテイ= 「檄!帝国華撃団」

2年、3年もゲームを運営していれば、自然と興味を持ってくれるような層に対してはほとんどアプローチし尽くしてしまうのではないかと思います。しかしこのように他作品の人気を借り入れることで、「BanG Dream!」プロジェクトやガルパに対する関心の薄い人にもゲームをインストールしてもらえることが期待できます。

また、3周年に追加されるカバー曲については、このようにヒントを出した上でユーザーに予想させるという形にしています。このツイートに対するリプライは600を超えており、さらにユーザーのリプライに対して別のユーザーがリプライすることで、非常に規模の大きなコミュニケーションが生まれています。その多くは、カバー曲予想のリプライからその曲や関連する作品に対する思い出にまつわるものとなっており、これもカバーだからこそ生まれたものです。

つまり、新規ユーザーのみならず既存のユーザーに対しても、カバー曲という強みを効果的に活用していると言えるのです。コラボは集客の常套手段ではありますが、ガルパの場合はそれをコンスタント且つ自然に供給できていることでしょう。

ストーリーで心をつかむ

カバー曲で集客したとしても、その人たちを定着させられなければ意味がありません。そうなると当然、カバー曲だけでなく「BanG Dream!」やガルパにしかないものを好きになってもらう必要があります。ガルパの場合、キャラクターやそのキャラクターたちが織りなす物語がそのための大きな武器になっています。

成長の物語

参考 『ガルパ』はいつでも“帰ってこられる”場所。Craft Egg・森川修一が2周年を迎えて願うことlivedoor ニュース

ガルパの開発・運営を担当するCraft Egg社の社長、森川修一氏はガルパの特徴の1つとして「キャラクターの成長を描くことが許されている」ことを挙げています。

キャラクタービジネスにおいては、キャラクターの人気をいかに確立するかが重要になります。それゆえ、確立した人気を揺るがしかねない、キャラクターの成長=変化はプロジェクトの展開の中では大きなリスクにもなるのです。

しかし「BanG Dream!」プロジェクトの場合、TVアニメ第2シーズンで高校生であるメインキャラクターたちが揃って進級します。アニメと同じキャラクターのストーリーを描いているガルパも、安定的、継続的な運営が望まれるオンラインゲームでありながら、同様に進級を描くことが許されているのです。

物語に深みを持たせるにはキャラクターの成長が不可欠。「BanG Dream!」プロジェクトやガルパでは、舵取りが難しくなることを承知で成長や変化を描いているということです。

UIの充実

そんなこだわりの滲むガルパのストーリーですが、その見せ方からも新規ユーザー定着への注力が窺えます。

今年1月に行われたアップデートでは、過去のイベントストーリーを閲覧する機能に変更が加えられました。この機能を活用することで、新たにガルパに興味を持った人たちがよりスムーズにキャラクターやストーリーに触れることができます。

ガルパには6つのバンド(後日さらにもう1バンド追加予定)が登場しますが、この機能ではそれぞれのバンドごとにストーリーを表示させることができます。また、ガルパの面白さの一端にはバンドを越えたキャラクターの交流がありますが、そういったバンド単位でないストーリーも「その他」としてまとめて表示できます。

しかし「その他」というくくりだけでは、どのキャラクターが出るストーリーなのかがわかりません。そんなときに役に立つのが画面右下の表示です(上記ツイートの画像内、左のスクリーンショット参照)。キャラクターのアイコンが5つ並んで表示されており、これで主要な登場キャラクターがひと目でわかるようになっているのです。

これらによって気になったキャラクターの登場するストーリーを苦労せず探すことができるため、売りの1つであるストーリーに触れる前に離脱されてしまうリスクを低減できるというわけです。

その他にも、イベントに合わせて制作された曲がどれなのかがすぐにわかる機能などもあり、ストーリーを読むことで楽曲の歌詞に織り込まれた意味を理解できるようになるなど、深堀り的な楽しみ方への導線も作っています。

また、ストーリーそのものの閲覧方法にも工夫が見られます。

ガルパを含め、大半のアプリゲームのストーリー画面はこのようにキャラクターのイラスト(立ち絵)を並べて、その前に文章を表示するテキストウィンドウを置き、画面上部に諸々のメニューを表示するという構成になっています。

ガルパが面白いのは、「全画面オート」というモードを導入している点です。全画面オートとは、その名の通りテキストウィンドウやメニューバーの表示を消して画面全体にキャラクターを表示し、自動でストーリーが進行していくモードです。

ガルパのストーリーにはLive2Dという簡易アニメーション技術が使われています。これを全画面オートにすることで、画面上ではキャラクターが勝手に動いたりしゃべったりする、アニメ作品のような鑑賞の仕方ができるようになります。

つまりガルパは、ストーリーの演出という面でも独自性のあるゲームだと言えるのです。

ちなみに他のゲームではイベントストーリーの閲覧に特定のアイテムを使う必要があることが多く、読みたいときに読みたいだけ読むということが難しい場合が多いです。ゲームによってはそのようなアイテムすらなく一切閲覧できないということもありますが、ガルパはこの配慮の行き届いたストーリーを、一定程度ゲームをプレイするだけでほぼ制限なく開放できます 。

このように、カバー曲をきっかけにガルパを始めたユーザーがストーリーを通じてガルパというゲームそのものを好きになった例も少なくないと考えられます。

まとめ

  • ガルパはリズムゲームの中でもアクティブユーザーが多い
  • カバー曲で他作品のファンにもコンスタントにアプローチ
  • 集まった人の心を質とアクセシビリティの高いストーリーでつかむ

このように、ガルパは絶えず巧みなリードジェネレーションを行うことでアクティブユーザーを維持していると言えます。スマートフォン向けゲーム業界は結果が出なければすぐにサービス終了となる恐れがあるという点で、ファン数の維持、獲得に特に敏感な世界です。ガルパはその中で生き残り続けています。

他のジャンルのファンを引き寄せ、売りとなるコンテンツを適切に提供することでアクティブユーザーとしての定着を狙うという戦略はロジカルで、あらゆる分野、場面で参考になるものではないかと思います。